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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10173号 判決 1982年9月06日

原告

大木ユキ

被告

野村周治

主文

一  被告は原告に対し金二〇六万七、四七二円及び内金一八八万七、四七二円に対する昭和四四年一一月六日から、内金一八万円に対する昭和五四年一〇月二五日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金二、五一五万円及びこれに対する昭和四四年一一月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四四年一一月六日午前一〇時三〇分ころ、墨田区業平四丁目三七番地付近路上において、自己所有の乗用自動車を運転して停止中のところ、訴外高橋光雄運転の自動車(千四あ二九二九号)に追突された。

2  被告は、本件加害車の保有者であり運行供用者責任がある。

3  原告は、本件交通事故により頸部挫傷、頭部外傷等の傷害を受け、次のとおり入通院して治療を受けた。

(一) 昭和四四年一一月六日から同月一五日まで

健生堂病院入院一〇日間

(二) 昭和四四年一一月六日から同月二二日まで

右病院通院七日間(実日数三日間)

(三) 昭和四四年一一月二四日から同年一二月二二日まで代々木病院通院二九日間(実日数六日間)

(四)昭和四四年一二月二三日から昭和四五年二月一三日まで

右病院入院五三日間

(五) 昭和四五年二月一四日から昭和四八年八月二〇日まで

右病院通院一、三三七日間(実日数六九日間)

(六) 昭和四八年八月二〇日から昭和四九年七月五日まで

右病院通院三四五日間(実日数九日間)

4  原告は、本件交通事故による右頸部挫傷等の後遺症として、昭和五三年一月一一日自賠法施行令別表の第一四級第九号(当時)に該当する旨の認定を受けた。

5  原告は、本件交通事故による右頸部挫傷、頭部外傷等の治療中、使用した薬物により昭和四六年七月ころ薬物性肝炎が発症し、同年八月上旬から同年一一月ころまで同愛記念病院に入院し、その後同病院及び唐沢病院に通院し、昭和四九年五月一〇日からは三宿病院に通院(ただし、同年九月二五日から同年一〇月九日までは入院)して治療を受けた。

6  原告は、本件交通事故により次の損害を受けた。

(一) 頸部挫傷等の入通院慰謝料金二二二万円

入院六三日分として金六〇万円、通院五四か月分として金一六二万円(一か月金三万円の割合)

(二) 後遺症慰謝料金七五万円

(三) 薬物性肝炎についての慰謝料金一、〇〇〇万円

(四) 未払交通費金三万円

(五) 休業損害金九八〇万円

原告は、昭和三〇年代前半期から夫竹次郎とともに青果業を営んできたが、青果物の仕入れ運搬等経営の重要部分は原告が担つてきたのであり、原告の寄与率は少くとも七割を下らない。昭和四三年度における青果業の純益は月額金一四万円はあつたところ、本件事故により原告が稼働できなくなつたため、経営は赤字続きとなり昭和四七年には青果業をやめるに至つた。したがつて、原告の休業損害は、月額金一四万円に寄与率七〇パーセントを乗じ、期間を昭和四四年一一月から昭和五六年六月までの一四〇か月として算定すると金一、三七二万円となり、本訴ではその内金九八〇万円を請求する。

(六) 逸失利益金一五万円

原告は、後遺症として第一四級の認定を受けているので、原告の逸失利益は、労働能力喪失率五パーセント、昭和五二年度の女子労働者のうち五〇歳から五四歳の平均年収金一五一万円、喪失期間三年、ライプニツツ係数二・七二三として算定すると金二〇万五、五八六円となり、本訴ではその内金一五万円を請求する。

(七) 弁護士費用金二二〇万円

原告は、本件交通事故による損害について訴訟外で被告と示談交渉したが、被告側の回答が低額であつたため、やむを得ず原告訴訟代理人弁護士に訴訟を委任しなければならなかつた。したがつて、右弁護士費用は本件交通事故と相当因果関係ある損害である。

7  よつて、原告は被告に対し、損害金二、五一五万円及びこれに対する事故発生日である昭和四四年一一月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。ただし、同3の長期にわたる通院治療の必要性は争う。原告は、昭和四五年中には症状固定状態になつていたと考えられる。

2  同5の薬物性肝炎の主張については否認する。

3  同6の損害額については争う。

三  抗弁

被告は、治療費のほかに損害金の一部として金三万二、五〇六円を支払済である。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  同3の事実は当事者間に争いがない。(なお、(五)の通院一、三三七日間とあるのは一、二八四日間、(六)の通院三四五日間とあるのは三二〇日間の誤りと思われる。)

もつとも、被告は、長期にわたる右通院治療の必要性について争い、確かに原告の通院が一般のむち打ち損傷に比べ長いことは指摘でき、また成立に争いのない甲第四号証によれば、代々木病院での昭和四八年八月二九日付診断書中には、「略症状は固定的である」旨の記載のなされていることが認められるのであるから、被告が通院の必要性に疑問を抱くのは無理からぬことかもしれない。しかし、原告は、昭和四四年一一月二四日以降は、頸部挫傷等の治療として代々木病院にのみ通院しており、成立に争いのない甲第四、第五号証によれば、同病院において、右傷害の症状が軽減してきたとはいえ、なお治療の必要があるとの判断のもとに原告を通院させていたものと認めることができるから、他に特段の事情の認められない本件では、右通院治療の必要性は否定すべきでないと考える。

三  原告が請求原因4のとおり後遺障害の認定を受けたことは当事者間に争いがない。

ところで、右認定の資料になつたと思われる成立に争いのない甲第九号証の後遺障害診断書(昭和五二年一二月二〇日付)には、症状固定日の記載がなされていないが、成立に争いのない乙第五号証によれば、右後遺障害診断書は、代々木病院での最終診療日である昭和四九年七月五日を症状固定日として作成されたものと認められるのであり、他にこれに反する証拠はないから、原告の症状固定日は昭和四九年七月五日と認める。

四  原告の肝炎の主張について判断するに、成立に争いのない甲第六、第七号証、第一三ないし第一六号証、第一八号証、第二八ないし第三〇号証、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、昭和四六年六月一一日子宮筋腫の病名により同愛記念病院に入院し、同月二四日手術を受け、同年七月一六日退院した。右退院後、原告には肝炎の症状が現れ、同年八月一〇日ころ黄疸が認められたため、同月二〇日慢性肝炎、糖尿病の病名により同愛記念病院に入院し、同年一一月一七日退院した。

2  原告は、昭和四九年五月一〇日三宿病院で診察を受け、やはり慢性肝炎、糖尿病と診断され、同年九月二五日から同年一〇月九日まで、昭和五〇年九月一七日から同年一〇月二三日までの二回三宿病院に入院した。

3  原告は、昭和三五年ころ黄疸にかかつたことはあつたが、その後特に肝障害についての異常は現れておらず、代々木病院での治療中も肝炎を疑わせる症状が認められなかつたため、肝機能検査は実施されなかつた。原告は、子宮筋腫の手術を受ける前の昭和四六年六月一一日同愛記念病院において肝機能検査を受けたが、異常所見は認められず正常と判定された。

なお、原告が慢性肝炎で同愛記念病院に入院した後の肝機能検査の結果は、昭和四六年八月二三日GOT五七〇、GPT四三〇、アルP一一、黄疸指数三二、同年九月一七日GOT三一、GPT二一、アルP八、黄疸指数六、同月二一日GOT二四、GPT一八、アルP七、黄疸指数五となつている。

五  原告は前認定の原告の肝炎は交通事故に起因する薬物性肝炎と主張するが、本件全証拠を検討するも、これを認めるに足りる証拠はない。

すなわち、薬物性肝炎は医学的には急性発症するのが普通であり、肝機能検査で異常が認められれば当然投薬は中止され、中止されれば、速やかに軽快治癒するとされている。したがつて、原告が昭和四四年一一月六日以降交通事故による傷害の治療のために使用された薬物により、昭和四六年七月ころになつて薬物性肝炎が現れたとは考えにくいのであり、本件では原告の肝炎の原因を断定するに足りる証拠はないが、むしろ前認定の症状からすると、ビールス性によると考えるか、又は薬物性とすれば子宮筋腫の治療の際に用いられた薬物によると考える方が可能性としては大きいといえるのである。

六  次に、原告の損害について判断する。

1  慰謝料

本件事故の発生日時・態様、傷害の部位・程度、入通院期間、通院実日数、後遺症の内容、その他記録から認められる一切の事情を斟酌すると、本件交通事故による原告の慰謝料としては、金八三万円(入通院分金六五万円、後遺症分金一八万円)をもつて相当と認める。

なお、原告は、薬物性肝炎についての慰謝料として金一、〇〇〇万円を請求しているが、前認定のとおり原告の肝炎が本件交通事故に起因する薬物性肝炎と認めるに足りる証拠はないから、右請求は失当である。

2  交通費

原告が健生堂病院に実日数三日間、代々木病院に実日数八四日間それぞれ通院していることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、交通費の内訳ははつきりしないものの、原告は、右通院のため少くとも金三万円を下らない交通費を支出しているものと推認するのが相当であり、これに反する証拠はない。

3  休業損害

原告は、夫とともに営んでいた青果業の純益が昭和四三年度において月額金一四万円はあつたと主張し、これに沿う原告本人尋問の結果があるが、成立に争いのない甲第一〇号証(乙第七号証の一は同じもの)、乙第七号証の二の納税証明書記載の所得金額に照らすと、右原告本人尋問の結果はにわかに採用できず、他に右主張を認め得る証拠はない。したがつて、原告の基礎収入については、各年度(昭和四五年度から昭和四八年度)の賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計の女子全年齢平均(ただし、パートタイム労働者を除く。)の年間給与額に基づいて算定する。

ところで、原告は、昭和四四年一一月六日受傷し、前認定のとおり昭和四九年七月五日に症状固定したと認められるから、その間五六か月あるところ、原告の受傷の部位・程度、年齢(昭和二年三月一五日生)、治療経緯、他の病気による入通院等これまで説示した諸点を考慮すると、本件交通事故に基づく就労不能は、当初六か月間は一〇〇パーセント、次の八か月間は六〇パーセント、次の一二か月間は三〇パーセント、次の一二か月間は二〇パーセント、残りの一八か月間は一〇パーセントと逓減した割合で認めるのが相当である。

してみれば、本件交通事故と相当因果関係ある休業損害は、別紙計算書1休業損害記載のとおり合計金九〇万九、九七八円となる。

4  逸失利益

原告に前記三のとおり後遺障害の残つたことは当事者間に争いがなく、右後遺症による労働能力の減少により症状固定日から三年間は五パーセント程度の減収があつたものと推認するのが相当であるから、原告の逸失利益は、別紙計算書2逸失利益記載のとおり合計金一七万四、九四九円となる。

したがつて、原告の請求する逸失利益金一五万円はこれを認めることができる。

5  損害の填補

以上1ないし4の損害金合計は金一九一万九、九七八円になるところ、原告が既に被告から損害金の一部として金三万二、五〇六円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、これを控除すると、残損害額は金一八八万七、四七二円となる。

6  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起、遂行を原告訴訟代理人弁護士に委任して行なつてきたことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易、請求額、認容額、訴訟の経緯、被告側の対応、その他諸般の事情を考慮すると、本件交通事故と相当因果関係ある弁護士費用としては金一八万円をもつて相当と認める。

七  したがつて、被告は原告に対し、金二〇六万七、四七二円及び内金一八八万七、四七二円に対する事故発生日である昭和四四年一一月六日から、内金一八万円に対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年一〇月二五日(弁護士費用については付帯請求の起算日を事故発生日とするのは相当でない。)から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田聿弘)

(別紙) 計算書

1 休業損害 合計金90万9,978円

(1) 当初6か月間 金25万6,249円

51万2,500(賃金センサス昭和45年度年間給与額)÷12×6=25万6,249

(2) 次の8か月間 金20万4,999円

51万2,500(上同)÷12×8×0.6=20万4,999

(3) 次の12か月間 金17万9,460円

59万8,200(賃金センサス昭和46年度年間給与額)×0.3=17万9,460

(4) 次の12か月間 金13万8,500円

69万2,500(賃金センサス昭和47年度年間給与額)×0.2=13万8,500

(5) 残りの18か月間 金13万0,770円

87万1,800(賃金センサス昭和48年度年間給与額)÷12×18×0.1=13万0.770

2 逸失利益 合計金17万4,949円

(1) 1年目 金5万3,519円

112万4,000(賃金センサス昭和49年度年間給与額)×0.05×0.9523(新ホフマン係数)=5万3,519

(2) 2年目 金6万1,432円

135万1,500(賃金センサス昭和50年度年間給与額)×0.05×0.9091(新ホフマン係数)=6万1,432

(3) 3年目 金5万9,998円

137万9,9900(賃金センサス昭和51年度年間給与額)×0.05×0.8696(新ホフマン係数)=5万9,998

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